新車試乗記 第538回 スズキ スプラッシュ Suzuki Splash

(1.2リッター・CVT・123万9000円)

ハンガリーからやってきた、
ヌーヴォーな欧州戦略車を
テイスティング!

日時: 2008年12月12日

     
     
     

    キャラクター&開発コンセプト

    ハンガリー製の欧州戦略車

    スプラッシュは東欧ハンガリーにあるスズキの製造子会社「マジャールスズキ社」製の新型コンパクトカー。基本的には欧州でAセグメントと呼ばれる最小クラスをターゲットとした欧州戦略車で、2007年9月にフランクフルトモーターショーで発表、欧州で2008年春に発売された。

    日本でも2008年10月21日に発売されたが、ハンガリーからの輸入販売という初の試みゆえ販売目標台数は月間500台とされている。

    プラットフォームはスイフトをベースに専用開発。ただし日本仕様車のパワートレイン(エンジンとCVT)は日本から輸出し、現地で搭載している。

    なお海外ではオペル(英国ではヴォクスホール)にOEM供給され、その場合の車名は「Agila(アギーラ)」となる。スズキ・ワゴンRプラス/ワゴンRソリオのOEM車であった初代アギーラの2代目だ。

    スズキ>プレスリリース> http://www.suzuki.co.jp/release/a/2008/1021/index.html

    マジャールスズキの沿革・概要

    1991年に設立されたマジャールスズキ社は、1992年から乗用車生産を開始。2006年には生産累計台数100万台を達成するなど、スズキにとって欧州生産拠点の要となっている。現在の生産車種は、スプラッシュ、スイフト、SX4の3モデル。供給先はイギリス、イタリア、ドイツなど欧州全域に及ぶ。なお英語名ハンガリーは、公用語であるハンガリー語で「マジャール」となる。英語名のジャパンに対する「日本」と同じだ。

    価格帯&グレード展開

    完全ワンモデルで123万9000円。カラフルに6色を用意

    ラインナップは1.2リッター・CVTのワンモデルのみ。価格は123万9000円とかなり安い。新型ワゴンRのノンターボ・CVT車(118万1250円)やスティングレーのノンターボ・CVT車(128万6250円)の間を狙った微妙な値付けとなっている。また、身内のライバル車?であるスイフトの1.2リッター・CVT(110万2500円~133万3500円)とは、ほぼ同等だ。どっちがどう(誰に)売れるかは、スズキ自身も注目するところだろう。

    「スプラッシュ」   123万9000円 ★今週の試乗車

    なお、グレードは一つに絞ったが、その代わりにボディカラーは全6色を用意。試乗車のトルコ石のような「ラグーンターコイズメタリック」の他、プジョーを思わせるブルーメタリックや明るいグリーンメタリック、そして黒、赤、白がある。

    パッケージング&スタイル

    スイフトより背が高く、若々しくてヨーロピアン

    ボディサイズ(マイナーチェンジ後の現行スイフト比)は、全長3715mm(-40)×全幅1680mm(-10)×全高1590mm(+80)。ホイールベースは2360mm(-30)。古典的ハッチバックスタイルのスイフトに対して、セミトールワゴン並みの全高が特徴だ。

    2004年から立ち上がった開発プロジェクトはオペルと共同だったようだが、基本デザインはスズキ主導で行われたという。短いオーバーハング、横だけでなく後ろにも張り出したフェンダーなどが若々しく、「走り」を感じさせる。

    「く」の字型になったリアコンビランプとくびれたリアハッチゲートはシトロエンC4クーペなどでちょっと既視感もあるが、定番的なスイフトに対するオルターナティブ(もう一つの選択肢)としての魅力は十分にあるだろう。

    タイヤの張り出し方も欧州車流

    185/60R15のタイヤサイズはスイフトの主力グレードと同じ。しかし欧州車流に「ツライチ」になっているのがルックスに大きく影響している。カタログ値(届け出値)で見る限り、全幅はスイフトの-10mmだが、トレッド値は+10mm。つまり合わせて20mm分、片側なら10mm分、タイヤが外に出ているわけだ。若干キャンバー角もネガティブに見える。

    最低地上高もスイフトと同じ145mmなのだが、フロントバンパーのアゴ部分は欧州車風に低いように思えた。斜面やクルマ止めなどに無頓着に突っ込んでゆくと、黒い樹脂製スポイラーが接触しそうになる。

    シンプルかつ合理的なインパネ

    内装色(生地の一部)はボディカラーによって3パターンあるが、試乗車は外装と同じターコイズ色。それ以外はごくシンプルで、実用的なデザインだ。

     

    ドライバーの正面には、「欧州車」らしく200km/hまで刻まれた大型一眼メーター(新型フィアット500の簡素版という感じ)。その下の液晶パネルには、デジタル時計、外気温、バーグラフ式の燃料計、そして切替式のオドメーター/トリップメーター/平均燃費計がぎっしりと表示される。このあたりの「合理化」はいかにもベーシックカーだ。タコメーターが無いのは寂しいところだが、販売店オプションでスマートのようにダッシュボード上面に突き出すタイプが追加できる(取付込みで2万3573円)。

    しっかりしたシート。日本専用のカップホルダー

    フロントシートはドイツ製コンパクトカーのようにしっかりした座り心地。サイドエアバッグも内蔵する。ステアリングのチルト(上下調整)とシートリフターがあるので、ドライビングポジションもそれなりに決まる。

     

    基本的にUK仕様の右ハンドルがベースだが、いくつか日本向けに改良された部分もある。例えばプッシュするとウニウニと身をくねらせながら出てくるインパネカップホルダーは日本向け専用品。元は灰皿だった部分で、その奇妙な飛び出し方はシフトレバーを避けるための工夫だ。開発者の試行錯誤と意地?を想像させて面白い。

    その他、電動格納式ドアミラー、セキュリティアラーム、リアのパワーウインドウも日本専用となる。

    見晴らし良し、シート良し、安全装備良し

    リアシートに座れば、ドーム状に膨らんだ天井による見晴らしの良さ、圧迫感のなさが印象的。ここは明らかにスイフトを上回る部分だ。ヒップポイントもぐんと高く(フロントシートより40mmも高い)、小柄な人だと足が床から浮きそうなほど。背もたれクッションはやや薄いが、座面は分厚いので座り心地はまずまず。後席のサイドウィンドウもちゃんと全開する。

    なお、スプラッシュは6エアバッグ標準装備。カーテンシールドエアバッグが後席の乗員を側面衝突や車外放出から守る。もちろん3点式シートベルトと大型ヘッドレストも3人分備わる。

    ワゴンR仕込みのシートアレンジ。床下には36リッターの収納スペース

    シンプルかつスペース効率の高い荷室はまさにスズキ流。リアシートの背もたれを畳めば、ワゴンRと同じように座面が連動して沈み込み、フラットで広い荷室となる。このあたりの使い良さはスズキならではだ。

     

    加えて床下には、36リッターと衣装ケース並みの収納スペースがある。カーケアグッズ等の収納を想定して、防水性のある樹脂製ボックスとなっており、いろいろ使い道がありそうだ。それを取り外すと、底にテンパー式のスペアタイヤが収まっている。驚くような工夫といった「飛び道具」はないが、欧州市場を意識した実用的なパッケージングと言えるだろう。

    基本性能&ドライブフィール

    スイフト譲りの1.2リッター+CVTは逆輸入

    今回の試乗はスズキ浜松本社を起点に行った。エンジンはスイフトと同じVVT付き1.2リッター直4「K12B」型で、スイフトの1.2(90ps、12.0kgm)とほぼ同じ88ps、11.9kgmを発揮する。トルコン付きCVTも、変速比や最終減速比を含めてほぼ同じだ。前述の通り、このパワートレイン一式は日本からハンガリーへ供給し、再び日本に戻ってくる、いわゆる「逆輸入」である。

    というような事情は知らずとも、パワートレインの印象はスイフト1.2に近い。このCVT、どちらかといえばCVTらしいCVTで、ちょっと回転上昇に遅れて加速が追いつく感はある。とはいえブンブン回して走らず、静かで燃費のいい低回転を使って走れば力感はあるしベルトノイズも気にならない。普通に走る分には快適かつ平和な走りに終始する。

    欧州仕込みの足まわりとタイヤ

    印象的なのは、やはり欧州車のようにしっかりした足まわりだろう。185/60R15サイズのタイヤは、欧州車に多い「コンチプレミアムコンタクト2」で、しかもコンチネンタル社と共同開発したスプラッシュ専用品だという。当然シャシー性能にはオペルの意向が入っているはずで、いかにも欧州車というか、ドイツ車っぽい重厚な足まわりだ。つまりけっこう硬めで、段差を越える時には「タタン!」とハーシュネスがあるものの、その衝撃がボディや乗員まで伝わることはない。ホイールベースは2360mmと短いが、ピッチングは皆無だ。

    今回はワインディングを思う存分に走る機会はなかったが、平地や下りのワインディングではかなりのハイペースが可能と思われた。ESPの設定はないが、少なくとも乾燥路で介入しそうな気配はまったくない。

    100km/h巡航でのエンジン回転はタコメーターがないので不明だが、静粛性は十分。その気になればメーター読みで160km/h巡航も可能なように思えた。

    10・15モード燃費は18.6km/L

    なお10・15モード燃費は18.6km/L。スイフトの1.2リッター・CVT車は20.5km/Lなので、約1割差がある。理由を聞き忘れたが、パワートレインのセッティングに大差がないとすれば、主な理由は足まわりのジオメトリー(低転がり抵抗よりも操縦性重視)、車重(50kg増し)あたりか。今回は浜松・浜名湖周辺という平地での試乗でちょっと負荷が少なかったが、参考までに試乗燃費は2名乗車で12.7km/L(車載平均燃費計表示)だった。

    ここがイイ

    デザイン、装備と価格、高めの視点、実用性など

    欧州車っぽいデザイン。いやこれは欧州車そのものだから当たり前か。スズキのクルマなのに日本車と明らかに違うデザインになるのは、単純に欧州市場が求めるデザインと日本市場が求めるデザインが違うからなのか、それともさらに何か違う理由があるのか、それが分からない。でもやっぱりこれは明らかにカッコいい。

    「輸入車」なのに、ものすごく安い。6エアバッグ、アルミホイールなどが標準装備で123万9000円という「軽よりも安い」価格を実現したこと。

    高めのシートポジション。好みはあるが、やはりタウンユースメインのクルマは高めのアイポイントが気持ちいいと思う。ワンアクションできれいに畳めるリアシートはやはり便利だし、ラゲッジアンダーボックスもまた便利。おそらく専用タイヤがかなりよくできているはずで、それゆえ振動やら騒音が少なくて快適。

    ここがダメ

    細かい部分の質感、CVTの滑り感、小回り性能

    全体の質感はさすがに少し安っぽい。細かく見れば、例えばホイールナットのメッキ(いわゆるクロメートメッキと思われる)はもはや日本車では見られない類のもの。内装なども最近の上質なスズキ車を見慣れた目には「チープ」に映ってしまう。総じて安めの欧州車っぽいというか、オペルっぽいというか。

    CVTに、最近のよくできたCVTのようなダイレクト感がなく、滑っているような感覚がついて回るのは残念なところ。こうなると、いっそMTとか、出来が悪くてもいいのでダイレクト感のあるセミATが欲しくなる。欧州車を標榜するのにESPがないのも残念。あってこの値段なら大拍手ものだが。

    意外に小回りが効かないこと。iQの3.9メートルは別次元として、ワゴンRシリーズが4.2~4.6メートル、ヴィッツが4.4~4.7メートル(RSだと5.5メートル)、フィットが4.7~4.9メートル。それらと比較してもスプラッシュの5.2メートル(実はスイフトの主力グレードと同じ)は、やはりちょっと大きい。慣れてしまえば大丈夫というレベルだが、このクラスのコンパクトカーで嬉しい一発Uターンの快感は味わいにくい。

    総合評価

    「張り出し方」における日欧の溝

    このエクステリアデザイン、たいしたものだと思う。コンパクトカーでかっこいいデザインなんてそうはできないと思っていたが、スイフトとスプラッシュは、二車が見事に違っていて、それでいて双方ともなかなかカッコいい。特にトールタイプのスプラッシュの場合、カッコ良くするのは難しいと思うのだが、前後フェンダーが張り出して、上に向かってキュッと締まり、見事に台形に踏ん張ったスタイルは古典的にカッコいいものだ。

    このカッコ良さはタイヤサイズが大きく、またワイドトレッドであることが大きな要因だろう。その昔、オジさん達が初代ゴルフにあこがれたのは、後輪が見事に「ボディより外に出ていた」から。タイヤを大きくして、トレッドを拡げ、オーバーフェンダーをかぶせれば絶対にカッコよくなるのだが、これを日本車はやらない。でも欧州車はやる。デザインにおいてこの部分だけは未だに日欧に溝がある。それでいてスプラッシュはちゃんと5ナンバー枠に収まっているし。

    「オトコのコンパクトカー」という潜在需要

    そんな欧州基準のはみ出しタイヤに(本当にはみ出してはいないが)、硬い足とくれば、これはもう小さいながらも「オトコのクルマ」でしょう。小さなクルマを男のクルマとすることは、今の日本車では相当難しいけれど、「欧州車」ならできてしまう。コンパクトカーが欲しくてもどれもこれも婦女子のもの、という現状に涙していた心ある男子にとって、これこそ求めていたクルマだ。あるいはマニアックで、それでいてお金をクルマにあまりかけられないクルマ好きにとって、スプラッシュは福音なのでは。男が乗れるコンパクトカー、そして驚くほど安い。スズキの子会社であるスズキビジネスがハンガリーからワインを輸入していることはよく知られているが、今回もロジスティックを効率化することで、ここまでの価格にできたようだ。とにかく軽自動車より安いのだから、このご時世でも買う気にさせてくれる。

    となれば、小型車は婦女子向けというイメージ展開は、もうそろそろやめてもいい頃ではないだろうか。トヨタiQですらがその呪縛から逃れられないほどなので、残念ながらスプラッシュも現時点ではまだ婦女子向けのクルマという展開となっている。しかしスプラッシュこそ「オトコのコンパクトカー」の先兵となりえるクルマなのでは。今からでも遅くないので、「オトコのための欧州コンパクトカーが上陸」というイメージ展開に変えて欲しいもの。オトコのコンパクトカーといえば、スイフトが国内で唯一その地位を固めつつあるから、競合を避けたのはわかるが、販売目標がしょせん月間500台ほどなのだし、オトコのクルマとした方が絶対売れると思う。軽自動車ではなく、フィットやヴィッツでもなく、オトコが乗れる小さなクルマが欲しいという潜在需要は、確実に増えていると思う。

    さらには上質なオトコのコンパクトカーへ

    となれば、さらに「オトナのオトコ」として欲しいのは、スイフトにある「スタイル」グレードのような上質な仕様だろう。スイフトの場合はベース車の数万~十数万円高で内装に本革やアルカンタラを使った「スタイル」となるから、スプラッシュなら130万円台でも可能なはず。ハンガリーでこの内装を作るのは難しいかもしれないが、もしオトコのための上質なコンパクトカーがこの価格で買えるのだったら、欲しいという人がかなり出てくるだろう。

    スズキといえば12月10日に鈴木修会長が7年ぶりに社長職を兼務することになった。前社長の健康上の理由ということだが、急に厳しくなった市場に対応するには会長の力がまた求められたという側面もあるだろう。鈴木社長がもしこの記事を読んで共感してくれたならワンマン(失礼、いい意味で)ゆえ、鶴の一声でスプラッシュの方向性を転換できるのでは。コンパクトカーに抵抗のある男性をダウンサイジングさせることができれば、コンパクトカーメーカーであるスズキが未曾有の大不況の中で勝ち残る可能性は一気に高まるだろう。

    試乗車スペック
    スズキ スプラッシュ
    (1.2リッター・CVT・123万9000円)

    ●初年度登録:2008年10月●形式:DBA-XB32S ●全長3715mm×全幅1680mm×全高1590mm ●ホイールベース:2360mm ●最小回転半径:5.2m ●車重(車検証記載値):1050kg( 650+400 ) ●乗車定員:5名●エンジン型式:K12B ● 1242cc・直列4気筒・DOHC・4バルブ・横置 ●ボア×ストローク:73.0×74.2mm ●圧縮比:11.0 ● 88ps(65kW)/ 5600rpm、11.9kgm (117Nm)/ 4400rpm ●カム駆動:タイミングチェーン ●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/45L ●10・15モード燃費:18.6km/L ●JC08モード燃費:-km/L ●駆動方式:前輪駆動(FF) ●サスペンション形式:前 マクファーソンストラット/後 トーションビーム ●タイヤ:185/60R15( Contineantal PremiumContact2 )●試乗車価格:125万8583円( 含むオプション:フロアマット 1万9583円)●試乗距離:-km ●試乗日:2008年12月 ●車両協力:スズキ株式会社

     
       
       
       
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