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新車試乗記 第180回 ホンダ フィット Honda Fit



日時: 2001年07月13日

 

キャラクター&開発コンセプト

欧州戦略から生まれたグローバル・スモールカー

フィットは「パーソナルMAXの具現化」をコンセプトに、まったく新しいカタチで開発された背高のコンパクトカー。実質的にはロゴを後継を担うモデルだが、フィットが見ているのはヴィッツ同様、世界市場。とくに欧州のBセグメントを勝ち抜くことをが、フィットに与えられた使命だ。

様々な工夫が凝縮された小さなボディの核となるのが完全新開発のグローバル・スモールプラットフォームだ。これは世界トップクラスの衝突安全性を配慮しながら、ショートノーズ化と低床化を実現したもので、通常後席あたりに設置される燃料タンクを前席下のセンター配置としたのが最大の特徴だ。

エンジンは新開発1.3リッターの「i-DSI」。1気筒につき2本のプラグを持たせることで、動力性と経済性の向上を両立させたとのことで、これにホンダ流無段変速機「マルチマチックS」が組み合わせられる。ボディタイプは5ドアのみで、駆動方式はFFと4WD。乗車定員は5名だ。

グレード展開

グレードは装備の違いにより、上から「W」「A」「Y」の3グレード。選択肢が少ない分だけ、最低限の装備は標準化されている、主力の「A」で十分事足りる。「Y」は装備も見栄えも営業車的なグレードと捉えたほうがいいだろう。また全グレードにFFのほか、4WDモデルが併設され、価格はFFの「W」が126万円、「A」が114万5000円、「Y」が106万5000円で、4WDはFFの18万円高。

パッケージング&スタイル

燃料タンクを前席の床下に配置

低床化を図った完全新開発のプラットフォームは、通常リアシート以降に設置される燃料タンクを、前席下のセンター配置したことが最大の特徴。これによって後席アレンジの制限がなくなっている。さらにこのセンタータンクレイアウトは、燃料タンクを囲むようにフロア下の補強材を通すことになり、フロアまわりの剛性を高めることにも貢献したという。つまり室内を広くとって使い勝手を向上させ、安全性も向上させた上で、動的な剛性にも効果があるということだ。ちなみに開発者によると「刷新したプラットフォームなので、燃料タンクのセンター配置は技術的にそれほど難しくなかった」とのこと。

ヴィッツとファンカーゴの“いいとこ取り”

ボディサイズは全長3830mm×全幅1675mm×全高1525mm。ロゴと較べてそれぞれ+45mm、+30mm、+35mm。宿敵ヴィッツと較べても一回り大きく、チョット背を低くしたファンカーゴといった寸法だ。ホイールベースは2450mmで、ヴィッツよりも80mm長く、ファンカーゴより50mm短い。簡単に言ってしまうとヴィッツとファンカーゴの中間的なクルマと捉えてもいいだろう。

最小回転半径はフィットが4.6mなのに対して、ヴィッツは4.5m。小回りではヴィッツが優位だが、ファンカーゴは5.1mで全高も立体駐車場が利用しにくい1.6m越え。つまりヴィッツにするか、ファンカーゴにするか、どちらか迷ったらフィットはいかが、というわけだ。

スタイルの基本はキャブフォワードスタイルで、極端に短いノーズと相まって、パッと見はミニバン的な印象。外観上の特徴は、立体的なレンズ形状のバブルキャノピーヘッドライトと、エッジを効かせたショルダーライン、そしてこのクラスとしては珍しい三角窓の採用だ。でもやっぱりヴィッツ。いや、シャープになったヴィッツというべきか。もしくはチョットだけ小さいシビック。よくできてはいるが、このごろ、どうもホンダはデザインに対して保守的すぎるように感じられる。

センタータンクレイアウトが生んだ簡単シートアレンジ

引き締め効果のある黒を基調とした室内は、いかにもホンダといった若々しい雰囲気。メーターパネルはアルミ調リングで囲まれた独立3眼式。センター最下端の空調パネルもメーターと統一感を持たせたユニークな3眼式ロータリースイッチを採用。コストをかけずに品質感を向上させるのもホンダ流で、インパネ表面は平凡な革シボではなく、独自のパターンシボを採用するなど、遊び心がある。クルマというよりバイクといった印象だ。かなりフォルクスワーゲンの内装を研究したようにも思える。

前席下に燃料タンクを配置して得られた低くてフラットなフロアによって、室内高は1280mmとオデッセイを凌ぐ高さ。また後席の足下空間はアコード同等の広さを実現している。後席の開放感はヴィッツよりちょっと広いかな、といったところ。

実用面で最大のウリとなるのが「ウルトラシート」と名付けられたシートアレンジだ。基本的に4つのモードを作ることができる。中でもセンタータンクの利点を最大限に追求したトールモードは驚きの発想。何と後席の座面が跳ね上がって背もたれと合体。しかもワンクションで。これによって背丈のある観葉植物鉢などの積載に最適な第2の荷室を生み出した。この他、後席の下が“空っぽ”なのを利用して、後席はその足元スペースにスッポリと収納させることもできる。その際、後席側にいながら前席の背もたれに設けられたレバーを操作して、前席を前側にスライドできるのも超便利。室内の多用途性、その使いやすさは完全にヴィッツを凌ぐ。

基本性能&ドライブフィール

ヴィッツを上回る低燃費の「i-DSI」エンジン

パワートレーンは1.3リッター直4エンジン+無段変速機マルチマチックのみで、最高出力は86ps。最大トルクは12.1kgm。ヴィッツの1.3リッターモデルに2ps、0.2kgm及ばないものの、燃費性能は大きくリードしている。10・15モード燃費は、オートマでありながら23.0km/Lと、驚異的な低燃費を実現している。対してヴィッツは一番良くても22.5km/L。しかもこちらは1リッターエンジンの5MT仕様だ。フィットとほぼ同じ条件の1.3リッター+ATともなれば18.0km/L。その差、5km/L。実質トップクラスといえるものだ。

高効率の秘密はリーンバーンでもなく、直噴でもない。新開発の「i-DSI」エンジンだ。「i」はインテリジェント、「DSI」はデュアル&シーケンシャル・イグニッションの略。1気筒につき2つのプラグの構成で、高度な位相差点火システムを採用している。ツインプラグは目新しいものではないが、2つのプラグの点火タイミングを独立制御しているのが新しい試み。加えてインサイトやS2000で培ったフリクションの低減や後方排気などの技術も投入している。排ガス性能も優秀で、★3つを取得。なお、ボディが比較的に重いということで、1リッターエンジンは設定されていない。

マルチマチックはこれまでもシビックやロゴで採用されていたが、フィットはそのお下がりではなく、インサイト用をベースに新開発されたもの。従来型よりも10%ほど軽量で、変速レシオが5.816と幅広になっているのが特徴だ。また、足回りは前ストラット式、後ろがトーションビーム式。コンパクトカーとしては定番の組み合わせだが、極短ノーズと低床に合わせて小型設計になっている。

しなやかさがもう少し欲しいが

エンジン回転の許容範囲は6000回転と、ホンダエンジンとしては低めだが、静粛性を含めて実用面での不満はない。アクセル踏み始め直後の加速感はコンパクトカー相応のレベル。パワー不足を感じるのは勾配がきつい上り坂ぐらいで、あとは十分満足できる加速だ。マルチマチックとの相性も、これまた満足できるレベル。小排気量と無段変速機にありがちなエンジン回転とスピードがリンクしないという違和感はほとんどない。発進、追い抜きに関わらず、3000回転ぐらいをキープすれば、非常にスムーズな加速が味わえる。

また超低速域でアクセルの踏み量を小刻みにするなど、意地悪な扱いをしてもギクシャクとした動きは一切ない。強いて気になる点を挙げれば、ちょっとクリープ現象が弱いかな、といったぐらい。一般的なトルコンATを設定せず、無段変速機1本に絞ったというホンダの自信の表れか。

ただ、エンジントルクの絶対的非力さは致し方ないところか。停止状態からアクセルを踏み込むと、一瞬非力感が感じられたあと、グッと力が盛り上がる感じで、このタイムラグは小排気量の悲しさだ。

乗り心地やエンジンのレスポンスといった走りの性格はヴィッツと大きく異なる。乗り心地を重視したソフトなヴィッツとは対照的に、フィットは足回りがかなり引き締められており、スポーティな走りを意識していることが伝わってくる。荒れた路面ではリアからの突き上げが強く、特に後席の人はやや不快感を抱くかもしれないが、それでもビシッとした欧州的な乗り味は個人的には好印象。トヨタとのキャラクターを明確するためにも、この判断はホンダらしい。

レスポンスのいいマルチマチック

加速時にアクセルをいきなり放すと即座に減速に移るといったレスポンスの良さも、スポーティだ。大袈裟に言えば、ブレーキに頼ることなく、アクセルワークひとつで加減速が調整できる仕上がりとなっている。このレスポンスをもっとも体感できるのが、DからSにシフトしたとき。エンジン回転数が700回転ほど上がるのだが、シフトレバーを動かしてから実際に変速されるまでのタイムラグがほとんど感じられない。

残念なのは電気式パワステのフィーリング。反応はかなり素早いが、低速域で必要以上に軽く、ステアリングを切りすぎてしまうこともあるほど。ついでに言ってしまうと、ブレーキのタッチも不満。これは多くのホンダ車に言えるのだが、踏み量に応じた制動力が得にくく、ブレーキペダルを奥まで踏まない限り、ブレーキが利いているのか効いていないのか、サッパリ分からない。ブレーキの容量アップとは言わないまでも、こうした細かなフィーリングは熟成が必要だ。

高速走行では150km/h巡航が可能。120km/hからの加速はかなり厳しいものがあるが、そんなにやかましくもない。1リッターのヴィッツでは150km/hが実質的に最高速だから、+300ccはこのクラスではそうとう大きい意味を持つ。ヴィッツ同様、法定速度での巡航は静かで快適。120km/h程度の流れに乗り、これより速くなったり、遅くなったりしながら走るには十分な動力性能だ。

ここがイイ

意地悪くいえば「遅出しジャンケン」なだけに、今まで出たコンパクトカーの不満を一切排除してある。運転席まわりは異様に広い空間があるし、シートアレンジもいうことはない。特にシートバックに付いたシートスライド用のつまみは便利。リアシートを折り畳んだ荷室の広さ、フラットさもこれ以上ないと言うほどの完璧さで、大きな荷物もラクラク運べる(実はレカロをむき出しのまま運んだが、リアハッチを開けて放り込むだけで簡単に載ってしまった)。このクラスとしては完璧なパッケージングだと思う。しかし前シート下のガスタンクという発想はどうして今まで誰もやらなかったのだろう。不思議だ。

ここがダメ

足がかたい。これを良しとする人も多いとは思うが、このクルマのコンセプトからしたら、もっとしなやかで、タウンで快適なクルマを目指すべきでは。ヴィッツがフランス車を手本にしたとすれば、フィットはドイツ車か。日本ではドイツ車が好まれるからこれでいいのかもしれないが、乗り心地重視ならヴィッツを選んだ方がいい。

試乗車にはホンダ純正カーナビがついていたが、使いにくく、モニターも見やすいとはいえない。この件は多くの人が認識していると思う。改善を求めたい。

総合評価

極端に言えば、「ヴィッツのミニバン」。ヴィッツはあくまでハッチバックだが、フィットは正に小さなミニバンだ(その意味ではファンカーゴはその名の通りコマーシャルカーか)。クルマの使い勝手としてはミニバンが最良であることは衆知の通り。ヴィッツを使っていると、もうちょっと荷室広いと完璧だが、もうちょっとパワーがあると走りに不満がないのだか、などと思えてくるが、その部分をフィットは満たしてくれる。ふだん二人程度でしか乗らないなら、これ一台でクルマとしての機能はすべてまかなえるといってもいい。 しかも価格は安い、燃費はいい、排ガスはきれいとこれまた不満を言うところがない。はっきりいってシビックの居場所がなくなってしまった。いや、初代シビックって、実は当時のこんなクルマだったのでは。中途半端に大きくなってしまったゴルフやシビックの先祖返りがフィットだ。ユニクロ製品にも通じる機能的で趣味のいい定番商品、といえるだろう。

公式サイト http://www.honda.co.jp/Fit/

 
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