キャラクター&開発コンセプト
メカを一新しつつ正常進化した3代目
FF シャシーの採用という手堅い方法で、ベストセラーミニバンの座を確立した2代目エスティマ。2006年1月に6年ぶりの全面変更で登場した3代目も方向性にブレはない。スタイリングや車体サイズの変化は控えめに、内外装の質感を高め、シャシーやパワートレインは一新。ハリアーやクラウンなどですでにお馴染みのプリクラッシュ・セーフティやレーダークルーズといった先端装備も採用し、さらに電動サードシートや天井パネルを振動板としたオーディオなどでも商品力を高めている。
ハイブリッド車は今夏の予定
生産はトヨタ車体の富士松工場(愛知県刈谷市)ほか、5月からはトヨタ本社・元町工場(豊田市)でも行われる。販売目標は7000台。先代は発売から2年もの間、月間平均1万台を売り抜いたが、自社の競合車が増えた今後の動向が気になるところ。とはいえ発売一ヶ月の受注状況は、目標の4倍に迫る約2万6000 台。エスティマというブランドの力と、代替需用のすそ野の大きさを実感させられる。ハイブリッドはこの夏登場の予定だ。
輸出先はアジア、中近東、オーストラリアなど。一方、2代目を「プレビア」の名で売っている欧州への投入はない。米国では初代プレビア(初代エスティマ)の後継で、一回り大きい「シエナ」が以前から販売されている。こうしてみると、3代目エスティマは従来車以上に国内重視のモデルと言えるかもしれない。
価格帯&グレード展開
2.4リッターなら266万7000円から
エンジン2種類で、2.4リッター直4+CVT(266万7000円~)と3.5リッター+V6(321万3000円~)。7人乗りか8人乗り、4WD (21万円高)、サイドリフトアップシート装着車(おおよそ10万~20万円高)も選べる。全車にスマートキーやガラスアンテナ、6スピーカーが標準だが、オーディオヘッドユニットはオプション。
パッケージング&スタイル
大きさは先代とほぼ同じ
先代に比べてボディサイズは全長で+15mm、全幅で+10mmとあまり変わらないが、全高は-40mmと低くなり、ホイールベースは50mm伸びた。多少スポーティな雰囲気を強めつつ、「大きさはこれくらいがベスト」という前提があるのだろう。試乗車のフロントバンパー先端にある黒いパーツは、プリクラッシュやレーダークルーズ用のミリ波レーダー。
シルエットは先代と似ているが、デザイン処理はまったく違う。ヘッドライト周辺の違いが一番目立つが、側面のキャラクターラインなども大幅に整理されて、すっきりした。また、ピラーのブラックアウト処理が初代はAとCだけ、2代目はAを除くB・C・Dピラーだったが、3代目では晴れてA・B・C・D全ピラーになった。
全車スマートキー標準、腕時計型キーも
試乗車はオプションの本革シート(19万6350円)付き。最近トヨタがよく使う、明るい色のウッド調パネルはGグレードのもの。先代で円を描いていたインパネは水平基調に、シフトレバーはコラムからジグザグゲート付きのインパネシフトに変わった。一方で変わらないのはメーターのセンター配置だが、ウォーニング類も含めて視認性はさらに良くなった。全車スマートキー標準で、ステアリング左側にスタートボタンが付く。また、クラウンに続いて、エスティマにも専用デザインの腕時計型スマートキー(4万2000円)がオプションで用意されている。
キャプテンシートが最大の売り
日本では2+3+3と座る8人乗り(2列目ベンチシート)が主流だが、新型エスティマで注目すべきは7人乗りのキャプテンシート仕様だ。独立したセカンドシートはそのままでも十分に豪華だが、新型エスティマではさらに飛行機のファーストクラスのようなオットマンが備わり、しかも800mmも前後にスライドする。サードシートを床下に収納して稼いだスペースも贅沢に使うわけだから、広くないはずがない。実際にやってみると、この気持ちよさはなかなかのものだ。
このキャプテンシートには、シートを内側に85mm寄せる機構も付いている。オペルのコンパクトワゴン、メリーバにも同様の左右スライドがあったが、これによって前方視界を良くしたり、フットルームを稼いだり、「窓際」の圧迫感を少なくしたり、それに何より後輪ホイールハウスの張り出しを避けてキャプテンシートを一番後ろまでスライドできるわけだ
天井の4個を含む11スピーカーのサウンドシステム
オーディオ・ビジュアルにも凝っている。後席9型ワイドモニターを備えた一番豪華な「パノラミックスーパーライブサウンド・システム」(HDDナビなど込みで 66万5700円と高価)なら、天井パネルを振動させる新型スピーカー(エキサイターと呼ばれる)4個を含む11スピーカーで、確かにホームオーディオ並みの音が楽しめる。室内中央にスライドできるセカンドシートは、いわゆる音場的にも有利だ。
電動でサードシートを床下収納
3人はともかく、2人掛けなら申し分ないサードシートだが、新型エスティマはこれがきれいさっぱり床下に格納できる。しかもオプションでフル電動(13万 7550円)も可能だ。この仕組み、シートベルト内蔵でかなり重量のあるシートを左右別々(6:4分割)で上げ下げするわけで、その動き方も複雑さもソアラあらためレクサスSCの電動メタルトップのようだ。
こんなことが出来るのも床下にスペースがあるからで、燃料タンクは左側セカンドシート下に配置、スペアタイヤは右側セカンドシート真下に追放した。しかしドライブシャフトとリアデフがある4WDではついにスペアの行き場がなく、パンク修理キットに替わる(荷室をつぶせばスペアタイヤ搭載も可能)。
基本性能&ドライブフィール
280馬力のV6+トヨタ自製6AT
試乗車はレクサスISやGS350、マイチェン後のクラウンアスリートも使うV6「2GR-FE」の横置きデチューン版(280ps、35.1kg-m)を積む3.5リッターモデル。2.4の直4はCVT(ベルト式無段変速)だが、こちらはトヨタのFF車で初の6ATが付く。横置き6ATと言えば、アイシン AWがVW・アウディ、BMW・MINIやPSAプジョー・シトロエンなどに供給する6ATを連想するが、新型エスティマの6ATは何とトヨタ自社製の別物。より軽量コンパクトな上、燃料カット領域を増やすため減速時に6→5→4とダウンシフトするといった工夫が施されている。
試乗前に「FF車で280馬力となるとトルクステアの問題は?」と開発スタッフに聞いたら、「いや、今時のFF車はトルクステアなんか出ませんよ」と笑われてしまったが、確かにトルクステアは出ない。わざと急激にパワーをかければホイールスピンするが、ステアリングが取られないのは今時のハイパワーFF車(欧州車に多い)と同じだ。山道を飛ばした時もまずまず安心感があり、ミニバンとしては十分。電動パワステも、従来同様(ただし新開発)のトーションビームリアサスにもネガは感じられない。乗り心地もいい意味でトヨタ車らしく、不満ないものになっている。
使い切れないほどのピークパワー
合計 90kg分のオプションのおかげで試乗車の車重は1920kgと重いが、エンジンパワーも当然十分。ミニバンでありがちな、後席に人を乗せて2000回転以下でそっと走る場合のトルクも頼もしいし、4000回転以上回した時のスパーンと突き抜けるような加速も気持ちいい。
ただ、クルマの性格から言えば、パワーの盛り上がり方はやはり過剰で、使い切れない感じはある。 3000~4000回転くらいでは吸気系か排気系かの共鳴音が高まり、ISとかクラウンアスリートのようなスポーツセダンならともかく、同乗者のために「粛々と」走りたい時にはアクセルコントロールに気を使わされる。
なお、発表時にちょい乗りした2.4リッター車はCVTの変速制御や遮音が巧みなせいか、短時間の試乗ではほとんどV6に遜色なく思えた。「2.4リッターで十分かな」となっても不思議はない。車両価格や燃費(10・15モードで約2割違う)に加えて、3.5はハイオク、2.4はレギュラーと、経済性に関しての差は小さくない。
ここがイイ
ありとあらゆるものをミニバンに載せて、究極のミニバンにしたこと。3.5リッターV6、6ATから、プリクラッシュセーフティシステム、レーダークルーズ、レーンキーピングアシスト、S-VSC、 AFS、一つの超広角レンズを電子的に補正して違和感を少なくするワイドビューフロントモニター、サイドモニター(サイドミラー下の小さな補助鏡とセットでボンネット上の無粋なミラーに頼らず視界を確保した)、インテリジェントパーキングアシスト、もちろんG-BOOKアルファ、日本初の純正・車載地上デジタルTV、キーインテグレーテッドウォッチ、天井平面スピーカーと、新しいモノ好きの心をくすぐる、まさに「フル装備」が可能。これぞインテリジェントミニバンだ。
先代譲りのスタイリングではあるが、やはり独自性を堅持。一目でエスティマとわかる未来感もあって、他に類をみないという点でたいしたものだ。先代よりさらにスタイリッシュになり、日本の工業製品の中ではオリジナリティの面で突出していると思う。
ここがダメ
2列目キャプテンシートの調節(すべて手動)がやや煩雑だ。座面下にあるレバーは計4個で、前から順に(1)前後スライド、(2)オットマン、(3)左右スライド、(4)リクライニング。座った状態で操作するから当然、手探りになるわけだが、一番自然に手が届くのが(2)のオットマンだ。ゆえに前後スライドしたいと思って操作すると、意に反してオットマンがバネで持ち上がってくる。
また、坂道で(1)の前後スライドレバーを操作すると、傾斜の下っている方へいきなりシートが動き出してしまう。80cmもスライド量があるし、とっさに止められないからこれにはけっこう慌てる。
また、せっかくの前後スライドもシートを中央に寄せなければホイールハウスにつかえてそれ以上下がらない。これを知らないと、あるいは知っていても、なかなか気付きにくく「あれ、これで一番後ろ?」となってしまう。
以上の解決方法としては、やはり電動がいいと思う。コストが問題なら、せめて前後スライドだけでもオプションで電動にするのがいい。サードシートの電動格納より、こっちの方が使用頻度は高いのでは。
総合評価
エスティマに対しての特別な思い入れは、これまで度々書いてきた。特に初代は革命的なクルマで、その登場時の強烈なインパクトは、今だそれを抜く新型車がないほど。1989年は国産車にとって、セルシオやNSX、R32GT-Rが登場したエポックメイキングな年だったが、翌90年に登場したエスティマはそれらよりもさらに革新的だった。高級セダンやスポーツカーといった既存のものではなく、まったく新しいクルマを提案し、商業的にも成功させ、ミニバンという一大ジャンルを築き上げたのだから。ただ、結果としてミニバンブームへの立て役者となった初代エスティマだが、実際にはミニバンというよりモノスペースカーという新しいクルマの提案だったように思う。
モノスペースカーというのは、ワンボックスタイプのクルマながら乗用車であるということだ。つまりバンのような無粋さがなく、ワンボックスゆえに室内は圧倒的に広く、快適な空間をもち、かつ走りも乗用車並ということだ。初代エスティマは「天才タマゴ」なスタイルが異質で、ミッドシップの走りは当時のワンボックス車からは想像もできない乗用車ライクなものだった。セカンドシートも当初はキャプテンシートしかなかった。跳ね上げ式のサードシートは人を乗せるだけでなく荷室を確保するための仕掛け。後にベンチ型のセカンドシートも投入されたが、当初は多人数乗車ではなく、4人がセダンより遙かに快適に過ごせる空間を備えたスタイリッシュな新ジャンルカーだったわけだ。
バブル期に大金を投じて企画されたクルマだけあって、そんな革新的なコンセプトが商品になってしまったこと自体、まさに事件だった。その後、5ナンバーナロー版のエミーナ/ルシーダが作られたこと(これらはセカンドシートがベンチで、多人数乗車型)で、エスティマ兄弟はいわゆる量販型ジャパニーズミニバンのイメージを強めていくのだが、当初のコンセプトはスペシャリティーカーそのものだったのだ。
3代目となる新型エスティマでは、そんな初代のコンセプトへ立ち戻ろうとしているように見える。ファミリーミニバンなら売れまくっているノア/ヴォクシーがあるし、豪華ミニバンならアルファードがある。その他、走りのミニバン、5ナンバーのミディアムミニバン、小さなミニバンなど、多人数が乗れるミニバンはもはや何でもありだから、新型エスティマはミニバンではなくスペシャリティーカーに特化できたのだ。多人数乗車など、もはやどうでもいい。4人が快適に過ごせることが重要。そしてそのために後部座席の広さや快適さを徹底追及したわけだ。初代同様に。
初代がでた当時は、まだミニバンそのものが認知されていなかったゆえ、モノスペースカーなど理解されようもなかった。しかしあれから16年、ミニバンがクルマの主流となった今、やっと理解される時がやってきたと思う。その意味では、新型エスティマはルノー・アヴァンタイム(すでに販売終了)に近いクルマだ。もちろんトヨタゆえ、アヴァンタイムのような売れないクルマにはなろうはずがないのだが。
16年の年月は長い。旧エスティマで育った子供達も、今や免許取得年齢だ。こうなるとミニバンに関しての考え方も変わってくる。ミニバンが家庭にあれば家族で共有できるから、子供が友人と遊びにいくのにも便利なクルマとして使える。また、今まで子供を乗せてきた親は、今度は自分たちが乗せてもらうこともできる。それまではいくら豪華な後部座席のクルマを買っても、運転手である以上乗れなかったが、今なら子供に運転させて豪華な後部座席を満喫することができるわけだ。となれば、俄然モノスペース・スペシャリティーカーを所有する意義がでてくる。むろん走りに不満はなく、その気になれば圧倒的な速さを安全に楽しむことができる。そして多彩なセカンドシートアレンジ、電動格納サードシートなどによって、かつてミニバンにあった不満はもはや一切無い。
エスティマは16年を経て、ついに当初のコンセプトが世間に通用するようになった。これはミニバンではない。(家族という運転手付の)4人乗りモノスペース・スペシャリティーカーという新しいクルマの提案だと思う。むろん販売的にはスタイリッシュでパワフル、ハイテク満載の高級ミニバンとして大量に売れていくのだが。
試乗車スペック
トヨタ エスティマ G
(3.5L・6AT・344万4000円)
●形式:DBA-GSR50W●全長4795mm×全幅1800mm×全高1730mm●ホイールベース:2950mm●車重(車検証記載値): 1920kg(F:1100+R:820)●乗車定員:7名●エンジン型式:2GR-FE●3456cc・DOHC・4バルブ・V型6気筒・横置 ●280ps(206kW)/6200rpm、35.1kg-m (344Nm)/4700rpm●使用燃料/容量:プレミアムガソリン/65L●10・15モード燃費:9.8km/L●駆動方式:前輪駆動(FF)●タイヤ:215/55R17(YOKOHAMA decibel E70)●試乗車価格:523万7820円(含むオプション:大型ムーンルーフ 8万9250円、音声案内クリアランスソナー 4万2000円、パワーバックドア&電動床下収納サードシート 13万7550円、本革シート 19万6350円、SRSフロントサイド/運転席ニー/カーテンシールドエアバッグ 8万1900円、HDDナビゲーションシステム/エスティマ・パノラミック・スーパーライブ・サウンドシステム/後席9型ワイドディスプレイ 66万5700円、ミリ波レーダー方式プリクラッシュセーフティシステム 54万6000円、ETCユニット 1万4700円、デッキボード 2万370円)●試乗距離:150km ●試乗日:2006年2月
公式サイト http://toyota.jp/estima/
